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Writer's pictureKumi Seto

りんご、バナナ、メディア・リテラシー

Updated: Jul 31, 2022




This is an apple.

(これは、りんごである。)


Some people might try and tell you that it’s a banana.

(あなたは誰かに、「これはバナナだ」と言われるかもしれない。)


They might scream banana, banana, banana over and over and over again.

(その人たちは「バナナ、バナナ、バナナ」と、何度も何度も叫ぶかもしれない。)


They might put BANANA in all caps.

(「バ・ナ・ナ」と大文字で強調してくるかもしれない。)


You might even start to believe that this is a banana.

(そしてあなたまで、「これはバナナなのかも?」と信じかけるかもしれない。)


But it’s not.

(でも違う。)


This is an apple.

(これは、りんごである。)


Facts First(CNN, 2017 / 筆者訳)



T Media Tech LLC(トランプ・メディア・アンド・テクノロジー・グループ)が手がけるSNSアプリ「Truth Social」がApp Storeで公開された。"Follow the Truth!" というT Media Tech LLCの言葉に、改めてCNNが2017年に放映したコマーシャルを思い出す。


イギリスの独立系慈善団体「National Literacy Trust」が2018年に公開した報告書「フェイク・ニュースと批判的リテラシー」(Fake news and critical literacy, 2018 )*1 には、以下の調査結果が記されている。


  • ニュース記事が本物か偽物かを見分けるのに必要な批判的リテラシー能力(critical literacy skills)を持つ子どもはわずか2%である

  • 子どもたちの半数(49.9%)が、フェイク・ニュースを見分けられないことを心配している

  • 子どもたちの3分の2(60.6%)が、フェイク・ニュースの影響により、ニュースをあまり信用しなくなっている

  • 教師の3分の2(60.9%/リポート本編の数字は60.7%)が、フェイク・ニュースが子どもたちのウェルビーイング(心身の幸福)を損ない、不安の度合いを高めていると考えている

  • 教師の半数(53.5%)が、国家のカリキュラムではフェイク・ニュースを見分けるためのリテラシーが身につかないと考えている


*調査対象/n=388(小学生)、n=1,832(中学生)、n=404(教員)


2017年に米国でトランプ政権が誕生し、以後、日本国内でも「フェイク・ニュース」という言葉がよく使われるようになった。何をどうフェイクと位置づけるのか、ここでいうニュースの定義とは何かなど、この言葉自体にも考察すべき点や課題は多く残されているが、同報告書ではまとめとして「フェイク・ニュースに関する子ども憲章」を示している。


  1. 私たちは、デジタルの世界をナビゲートし、オンラインで見つけた情報に疑問を持つために必要な批判的リテラシー能力を持つべきである。

  2. 私たちは、信頼できるメディア企業から正確なニュースを入手する権利を持つべきである。恐怖や不安を煽るようなニュースを、議論や文脈の整理をする機会がないまま見聞きするべきではない。

  3. 私たちには、テレビ、ラジオ、ウェブサイトやアプリやソーシャルメディアを含むオンライン上のニュース・ストーリーを通じて批判的リテラシー能力を鍛える機会が与えられるべきである。

  4. クリティカル・シンカー(批判的思考ができる人)になり、フェイク・ニュースを見分けることができるようになるために、私たちは、ニュースがどのように作られるかを理解するべきである。

  5. 私たちは、オンライン上で読んだニュースについて、家庭や友だちと話すことを奨励し、支援するべきである。


これらはもちろん、子どもだけが身につけるべきメディア・リテラシーではない。子どもたちに日々接する大人(教員、ビジネスリーダー層、親などの家族を含む)こそ、デジタル社会とメディアの課題に積極的にかかわる必要がある。


UNESCOは2020年の「ソウル宣言 」*2 で、「メディア情報リテラシー(MIL)それ自体は、パンデミックを含むすべての問題の解決策にならない」が、メディア情報リテラシーを高めることは、人々のクリティカル・シンキング(批判的思考)と、情報通信技術との関わりかたを識別する力を強化するための持続可能なアプローチにつながると強調している。


SNSが普及し、もはや情報発信はマス・メディアのものではなくなった。一億総メディア時代を迎えるなか、誰もがふだん何げなく発している情報の質に自覚的になる必要がある。


メディアの情報はすべて「構成されている」ものだ。それはマス・メディアであろうが、個人が発信する情報であろうが変わらない。メディアは構成されているものである限り、そこには発信者の意図がある。


なぜ、この話題を扱ったのか。なぜ、このような文体で書いているのか。なぜ、このような言葉を使っているのか。なぜ、他のテーマや人や場所や文体や言葉を「選ばなかった」のか。


立ち止まり、情報を俯瞰して捉えること。想像し、自覚すること。デジタル社会とメディアのより良い関係づくりは、ここから始まる。



脚注:1. 調査を行った「フェイクニュースおよびクリティカル・リテラシー能力の教育に関する委員会」(Commission on Fake News and the Teaching of Critical Literacy Skills)にはFacebook運営会社のMetaも名を連ねている。2. UNESCO, 2020. Seoul Declaration on Media and Information Literacy for Everyone and by Everyone: A Defence against Disinfodemics.


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