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3,000人が集う「ダボス会議」、真の価値が試される5日間が始まった

  • Writer: Kumi Seto
    Kumi Seto
  • 2 days ago
  • 5 min read

繰り広げられるのは「対話」か、それとも対立に向けた「宣戦布告」なのか――。

第56回世界経済フォーラム年次総会(通称「ダボス会議」)が2026年1月19日にスイスのダボス・クロスタースで始まった。「この数十年のなかで最も複雑な地政学的状況下で開催される」(世界経済フォーラム)今回の会合には、米ドナルド・トランプ大統領やウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領など約65人の国家元首や政府首脳を含め、130カ国以上から約3,000人が出席する予定だ。

今年のダボスの主役は、なんといってもトランプ大統領だろう。デンマーク自治領グリーンランドの領有権獲得に意欲を見せるなか、過去最大規模の米国代表団を率いてダボスに降り立つ見通しだ。21日に予定されている演説で、米大統領は何を話すのか。トランプ大統領の発言に、欧州をはじめ世界各国はどう反応するのか。「対話の力(A Spirit of Dialogue)」をテーマに掲げる今年のダボスには、いつにも増して緊迫した空気が漂う。

年次総会に先駆けて世界経済フォーラムが発表した『グローバルリスク報告書2026年版』は、「地経学上の対立」を最大のリスクに挙げた。本調査の回答者の半数が、今後2年間のグローバル情勢は「激変」または不穏な状況になると予測している。

世界は今、単なる交渉や演説ではない「対話の力」を渇望している。多くのリーダーが物理的に一堂に会したからといって、本質的な対話が行われるかどうかは別の話だ。トランプ大統領の言動が場を支配しかねない状況下において、既存の枠組みを打ち破り、対話を通じてよりよい未来を共に創る力を引き出すことができるか。「ダボス会議」の真の価値が試される5日間になる。

「私たちは2050年を迎えることができるのか?」

メディアの見出しやSNSを躍らせるのは、いつだって「対立」を煽る政治家たちの大きな声だ。華やかなメインステージでの政治的な駆け引きは、確かに目を引く。しかしその足元では、世界をよりよい場所にしようと知恵を絞る企業人や専門家たちが地道な対話を紡いでいる。

政治的な劇場の最前列ではなく、実務者たちの本音の対話に耳を澄ませたい――。開催初日の夜、華やかなオープニングコンサートの会場を離れ、私は凍てつくダボスの街に出た。向かった先は、ダボス期間中に現地の学校の講堂で開催される公開イベント「オープン・フォーラム」だ。世界経済フォーラムが03年から始めた取り組みで、市民を含め、席があれば誰でも無料で参加できる。

開始の30分前にもかかわらず、入り口には50人近い人々が列をなしていた。会場担当者に聞くと、すでに200人近い人たちが入場済みだという。2年前に参加した朝のセッションでは学生の姿が目立ったが、今回はビジネスパーソンや地域住民と見られる人たちが多い印象だ。

初日のオープン・フォーラムのテーマは「私たちが望む2050年とは?」。列に並びながら、自然と会話が生まれた。前に並んでいたのは、スタートアップのリーダーとプエルトリコ出身のアメリカ人。後ろにいたのはウクライナ出身の男性だった。話題はAI、トランプ大統領、そして地政学的リスクへと続く。

「ここは前向きな人たちの集まりだね。未来に目が向いているのだから」。キーウ出身の男性が、にこやかにそう呟いた。未来に目を向けたとき、私たちは今なにを考え、どう行動すべきなのか。異なる背景を持つ人々が、同じ問いを抱きながら会場の席に着いた。


希望を語る場になるだろう。そんな期待はすぐに吹き飛んだ。議論の中心は世界に立ち込める暗雲と、人類の生存に向けた抵抗のメッセージだった。

「まず、私たちが2050年に到達できるのか疑問です」。パネルトークの冒頭、アムネスティ・インターナショナル事務局長のアグネス・カラマードの言葉が講堂全体に響き渡った。

民主主義は後退し、1985年の水準にまで逆戻りしている。権威主義という名の暗雲が、わずか12カ月でアメリカのあらゆる機関を覆い尽くした。表現の自由、メディア、学問、移民や難民、ダイバーシティ。かつて不可侵とされた領域が、次々と侵食されている――そう彼女は主張した。

未来を語るには、今を乗り切る必要がある。2050年のビジョンを描く以前に、そこに到達することが最初の願いであり、「自分たちの村やコミュニティ、家族を含め、私たちはどこにいようとも権威主義的な慣行と戦う責任がある」と、カラマードは力強く発した。


コロンビア大学のアダム・トゥーズ教授は、「ダボスでこんな話をすることになるとは思っていなかった」と前置きした上で、「現時点では、グリーンランドが自治と自己決定権を持つこと」が願いだとし、「そこに到達することは、(社会や集団の)大きな意識の変化を意味する。これこそが、今週のダボスでのテーマの1つだろう」と述べた。


そして、聴衆に向けて「暗い事実」を訴えた。トランプ政権は気候変動対策の国際的な枠組みから離脱しただけではない。国際海事機関(IMO)では小国の代表者を個別に脅迫し、船舶の脱炭素化という人類共通の目標を「マフィアのような手法で」妨害した――。「彼ら(トランプ陣営)は気候変動の分野にも、脅迫や個人への脅しという戦術を持ち込んでいる」。その言葉は、これから始まる「トランプ・ダボス」への警鐘のように聞こえた。

だが、暗い現実ばかりが語られたわけではない。グローバル・シェイパーとしてカブールで活動するザイナブ・アジジは、6年生以上の女子への教育が禁止されているアフガニスタンで、国内外の人たちがAIなどを駆使しながら教育を受ける権利を支えるネットワークを築いている現実を語った。志を持った人たちが自発的に立ち上がり、静かに灯す抵抗の炎は希望の光のようにも映る。


フォーラム開始から1時間が過ぎ、聴衆を交えた質疑応答の時間になった。10人をゆうに超える人たちが勢いよく手を挙げた。「権威主義体制が人々を虐げ、ジェノサイドを犯し、人々が逃げ出すのを止めるのに有効かつ強制力のある仕組みは生まれると思いますか」。参加者からの質問に、カラマードは力を込めてこう言った。

「私はまったく希望を持てない。しかし、もし私たちが一緒にノーと言い、立ち上がり、抵抗するなら、変わるかもしれない」。その言葉は、世界に渦巻く権威主義に対する「宣戦布告」のようにも映った。

2050年という未来は、まだ白紙の状態にある。そこに希望を書き込むことができるのか。選択は、今この瞬間の私たちの手に委ねられている。

「ダボス・リポート2026」では、ダボスの現場取材を通じて、今後の経済や社会を描くうえで今まさに「人間による対話」が求められる領域​​と、対話が実装に変わるための条件を紐解いていく。

写真/世界経済フォーラム
 
 
 

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