Kumi SetoJan 20, 20246 min readユニコーンが見た「ダボス」のリアルUpdated: Feb 10, 2024世界経済フォーラム第54回年次総会(通称「ダボス会議」)が1月19日に閉幕した。今年は125カ国以上から350人の首脳や閣僚を含む約3,000人のリーダーが参加。セッションやワークショップの数は450を超え、「信頼の再構築へ」というテーマを軸に対話や議論が繰り広げられた。官民の協力を通じて世界情勢の改善に取り組む世界経済フォーラムの年次総会だけに、ダボスでは例年、世界各国から来た政府高官やリーダーたちの言動に注目が集まる。今年も多くのメディアがウクライナのヴォロディミル・ゼレンスキー大統領や中国の李強首相、フランスのエマニュエル・マクロン大統領など各国トップの発言を大きく報じた。ダボスは歴史の転換点を数多く生み出してきた場所だ。そこに世界の今を動かすリーダーが集結するのだから、彼らの動向に目が向くのは当然だろう。だが、2度目の参加となった今回実感したのは、メディアが報じることのないクローズドな会合や偶発的な対話がもたらす価値の大きさだ。ダボスでは会場内のいたるところで官民のリーダーたちが顔を合わせ、時には飲み物やスナックを片手に対話を繰り広げる。原則、そこには広報担当者や秘書はいない。また、招待制のセッションやワークショップも数多く実施される。「取材はNG」という場所やシーンも少なくない。本音で話せる環境づくりを重視するためだ。胸筋を開き、率直な意見を交換し議論を深める。そこから持続可能な社会や経済、地球のために新たなパートナーシップやコラボレーションが生まれ、ビジネスが動き、世界が動き出す。会場内を歩き回り、さまざまな国の人たちと話をしながら改めてダボス会議の本質はそこにあると感じた。実際のところ、世界経済フォーラムの年次総会は参加者に何をもたらしているのだろうか。この問いの答えを探るために、今回は世界経済フォーラムの「ユニコーン」メンバーとして総会に初参加したTBMとティアフォーのCEOを取材。スイスの山奥にある極寒のリゾート地ダボスで2人は何を思い、どんな収穫を得たのか。まず話を聞いたのはTBMの山﨑敦義CEOだ。TBMは石油由来樹脂の使用量やCO2排出量を削減したプラスチック代替製品や、木を使わずに製造時の水使用量を大幅に抑えて紙の代替製品を作ることができる新素材「LIMEX」(ライメックス)の開発・製造を中心に手がけるスタートアップだ。2023年6月からユニコーン・コミュニティに参画している。開催3日目の午後に会った山﨑は開口一番、「大興奮です。マイナス10度以下でも寒さを感じない」と勢いよく語り出した。何が山﨑を高揚させたのか。「たまたま横にいた人と名刺交換したら中東地域の財閥のトップだったり、インドの素材系商社のトップだったりする。積極的になればなるほど人や情報にアクセスできて、自分たちのビジネスの大義や目指すべき規模に気づかせてもらうことも多い。しかも、私たちが扱っているのは素材なので官民や業界問わずいろんな人や企業とつながっていける。楽しくて大興奮です」TBMは今回の年次総会でカーボンリサイクル技術を使用したCO2由来の「次世代LIMEX」を発表した。およそ40人が集まるクローズドなワークショップでスピーチしたところ「世界中の方々から期待の声や高い評価をもらった」という。「世界が自分たちのビジネスを求めていると自信が持てました。一方で、取り組みをもっと加速させないとダメだとも気づきました。1年後にダボスに戻ってくるまでハングリーに挑戦し、製品を軌道に乗せてみせます」ちなみに、「ダボス会議」には「エリートの集まりだ」といった批判的な声もある。筆者もダボスから宿泊先に向かう電車の中で反対デモの参加者に声をかけられ、「ダボス会議はよくない」と滔々と語られた。このような批判について山﨑はどう思うのか。「まず、(中学卒業後に大工としてキャリアをスタートした)私自身のルーツを含めて、自分たちがエリートだとは全然思っていません。私のなかでは、ダボスにいる人たちはお金持ちのエリートではなく、世界を変える挑戦や活動をしている同志や仲間という感覚です」ダボスの地で、ビジネスへの確かな手応えと志をともにする仲間を得たようだ。「抽象度が高い話し方」をサム・アルトマンに学ぶ最終日の昼に話を聞いたのはティアフォー創業者でCEO兼CTOの加藤真平。同社は2023年8月からユニコーン・コミュニティに参画している。年次総会に参加した感想を尋ねると、「当初の想定とそこまで違いはなかったし、当たり前のことを皆で話している印象でした」と忌憚のない言葉が返ってきた。そんななか、「一番のハイライトだった」というのがOpenAIの創業者兼CEOサム・アルトマンを囲んだクローズドな夕食会だ。起業家としてビル・ゲイツやアルトマンが醸し出す雰囲気や話し方に関心を寄せていたという加藤。アルトマンとの対話を通じて、「彼の話は抽象度が高いとわかったことが収穫だった」と言う。なぜ、抽象度の高さが重要なのか。##写真(Davos4_photo2)入る。以下、キャプション「ダボス会議」に参加したOpenAI CEOのサム・アルトマン「例えば『これからの日本をどうするのか』という問いを考えたとき、他国に競争で勝つための具体的な案は出にくい状況だと思う。しかし抽象度を上げてみると、そもそもどの国が競争に勝っても日本に有益な仕組みを作るのが得策だとなるはずですし、極論を言えば地球が良ければいいという考え方もありうる。この前提があると目的ベースでさまざまな可能性を考えられるようになる。上に立つ人はこのレベル感で話をすることが大事だし、そのことを改めて確認できました」さらに「年次総会に来ている多くの経営者と比べても、自分は競争でも勝てるという感覚は持ちました。一方で、今の自分ではビル・ゲイツのような圧倒的な立場のある人には、まだまだまともに会話もしてもらえないこともわかったのがよかった」とも。世界経済フォーラムのユニコーン・コミュニティに選出され、少なからぬお金を払って参画したことの意義についてはどう捉えているのか。「ユニコーン・コミュニティに選ばれたという事実は株主からの評価とマーケットでの認知につながると思います。一方で、ティアフォーの年間売上はようやく20億円の水準を突破したところです。ここから毎年100%の成長を続けて、30年には売上高を何十倍にもしないと真のユニコーンにはなれない。ティアフォーはユニコーンだと社員に安心してもらうためにも、売り上げを着実に伸ばすことが当面の目標です」TBMとティアフォー。ものの見方や感じ方は違うものの、「ダボス会議」を通じて自分たちの現在地を再認識し、さらなる飛躍のきっかけを得たことは間違いないようだ。写真=世界経済フォーラム
世界経済フォーラム第54回年次総会(通称「ダボス会議」)が1月19日に閉幕した。今年は125カ国以上から350人の首脳や閣僚を含む約3,000人のリーダーが参加。セッションやワークショップの数は450を超え、「信頼の再構築へ」というテーマを軸に対話や議論が繰り広げられた。官民の協力を通じて世界情勢の改善に取り組む世界経済フォーラムの年次総会だけに、ダボスでは例年、世界各国から来た政府高官やリーダーたちの言動に注目が集まる。今年も多くのメディアがウクライナのヴォロディミル・ゼレンスキー大統領や中国の李強首相、フランスのエマニュエル・マクロン大統領など各国トップの発言を大きく報じた。ダボスは歴史の転換点を数多く生み出してきた場所だ。そこに世界の今を動かすリーダーが集結するのだから、彼らの動向に目が向くのは当然だろう。だが、2度目の参加となった今回実感したのは、メディアが報じることのないクローズドな会合や偶発的な対話がもたらす価値の大きさだ。ダボスでは会場内のいたるところで官民のリーダーたちが顔を合わせ、時には飲み物やスナックを片手に対話を繰り広げる。原則、そこには広報担当者や秘書はいない。また、招待制のセッションやワークショップも数多く実施される。「取材はNG」という場所やシーンも少なくない。本音で話せる環境づくりを重視するためだ。胸筋を開き、率直な意見を交換し議論を深める。そこから持続可能な社会や経済、地球のために新たなパートナーシップやコラボレーションが生まれ、ビジネスが動き、世界が動き出す。会場内を歩き回り、さまざまな国の人たちと話をしながら改めてダボス会議の本質はそこにあると感じた。実際のところ、世界経済フォーラムの年次総会は参加者に何をもたらしているのだろうか。この問いの答えを探るために、今回は世界経済フォーラムの「ユニコーン」メンバーとして総会に初参加したTBMとティアフォーのCEOを取材。スイスの山奥にある極寒のリゾート地ダボスで2人は何を思い、どんな収穫を得たのか。まず話を聞いたのはTBMの山﨑敦義CEOだ。TBMは石油由来樹脂の使用量やCO2排出量を削減したプラスチック代替製品や、木を使わずに製造時の水使用量を大幅に抑えて紙の代替製品を作ることができる新素材「LIMEX」(ライメックス)の開発・製造を中心に手がけるスタートアップだ。2023年6月からユニコーン・コミュニティに参画している。開催3日目の午後に会った山﨑は開口一番、「大興奮です。マイナス10度以下でも寒さを感じない」と勢いよく語り出した。何が山﨑を高揚させたのか。「たまたま横にいた人と名刺交換したら中東地域の財閥のトップだったり、インドの素材系商社のトップだったりする。積極的になればなるほど人や情報にアクセスできて、自分たちのビジネスの大義や目指すべき規模に気づかせてもらうことも多い。しかも、私たちが扱っているのは素材なので官民や業界問わずいろんな人や企業とつながっていける。楽しくて大興奮です」TBMは今回の年次総会でカーボンリサイクル技術を使用したCO2由来の「次世代LIMEX」を発表した。およそ40人が集まるクローズドなワークショップでスピーチしたところ「世界中の方々から期待の声や高い評価をもらった」という。「世界が自分たちのビジネスを求めていると自信が持てました。一方で、取り組みをもっと加速させないとダメだとも気づきました。1年後にダボスに戻ってくるまでハングリーに挑戦し、製品を軌道に乗せてみせます」ちなみに、「ダボス会議」には「エリートの集まりだ」といった批判的な声もある。筆者もダボスから宿泊先に向かう電車の中で反対デモの参加者に声をかけられ、「ダボス会議はよくない」と滔々と語られた。このような批判について山﨑はどう思うのか。「まず、(中学卒業後に大工としてキャリアをスタートした)私自身のルーツを含めて、自分たちがエリートだとは全然思っていません。私のなかでは、ダボスにいる人たちはお金持ちのエリートではなく、世界を変える挑戦や活動をしている同志や仲間という感覚です」ダボスの地で、ビジネスへの確かな手応えと志をともにする仲間を得たようだ。「抽象度が高い話し方」をサム・アルトマンに学ぶ最終日の昼に話を聞いたのはティアフォー創業者でCEO兼CTOの加藤真平。同社は2023年8月からユニコーン・コミュニティに参画している。年次総会に参加した感想を尋ねると、「当初の想定とそこまで違いはなかったし、当たり前のことを皆で話している印象でした」と忌憚のない言葉が返ってきた。そんななか、「一番のハイライトだった」というのがOpenAIの創業者兼CEOサム・アルトマンを囲んだクローズドな夕食会だ。起業家としてビル・ゲイツやアルトマンが醸し出す雰囲気や話し方に関心を寄せていたという加藤。アルトマンとの対話を通じて、「彼の話は抽象度が高いとわかったことが収穫だった」と言う。なぜ、抽象度の高さが重要なのか。##写真(Davos4_photo2)入る。以下、キャプション「ダボス会議」に参加したOpenAI CEOのサム・アルトマン「例えば『これからの日本をどうするのか』という問いを考えたとき、他国に競争で勝つための具体的な案は出にくい状況だと思う。しかし抽象度を上げてみると、そもそもどの国が競争に勝っても日本に有益な仕組みを作るのが得策だとなるはずですし、極論を言えば地球が良ければいいという考え方もありうる。この前提があると目的ベースでさまざまな可能性を考えられるようになる。上に立つ人はこのレベル感で話をすることが大事だし、そのことを改めて確認できました」さらに「年次総会に来ている多くの経営者と比べても、自分は競争でも勝てるという感覚は持ちました。一方で、今の自分ではビル・ゲイツのような圧倒的な立場のある人には、まだまだまともに会話もしてもらえないこともわかったのがよかった」とも。世界経済フォーラムのユニコーン・コミュニティに選出され、少なからぬお金を払って参画したことの意義についてはどう捉えているのか。「ユニコーン・コミュニティに選ばれたという事実は株主からの評価とマーケットでの認知につながると思います。一方で、ティアフォーの年間売上はようやく20億円の水準を突破したところです。ここから毎年100%の成長を続けて、30年には売上高を何十倍にもしないと真のユニコーンにはなれない。ティアフォーはユニコーンだと社員に安心してもらうためにも、売り上げを着実に伸ばすことが当面の目標です」TBMとティアフォー。ものの見方や感じ方は違うものの、「ダボス会議」を通じて自分たちの現在地を再認識し、さらなる飛躍のきっかけを得たことは間違いないようだ。写真=世界経済フォーラム
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