偽情報エコノミー:偽りの情報で報酬を得るカラクリ 

嘘とウワサ

2026/10/20

あなたが見た、あるいはあなたの会社が出しているオンライン広告は、フェイクニュースサイトの資金源になっている可能性がある。

信じられないかもしれない。だが、これは事実だ。

NewsGuardとComscoreが7,500のサイトを分析したところ、ディスプレイ広告費の1.68%がフェイクニュースサイトなどの誤情報・偽情報発信業者に流れていることがわかった。誤情報に対する世界全体の広告支出額は年間およそ26億ドル(約4260億円)にのぼると推計されている。

「世の中は偽情報に溢れている」と聞くと、私たちはその原因を「悪意を持った個人や団体」に求めがちだ。だが、本当の理由はもっと構造的なところ——偽情報がお金を生み出すエコシステム——にある。

「偽情報エコノミー」とは何か

「偽情報エコノミー」はいま、マーケティング研究の最前線でも注目を集めている領域だ。国際的な査読付き学術誌『Journal of Marketing Management』(JMM)は「The Disinformation Economy: Digital Markets of Influence, Conflict, and Polarization」(偽情報エコノミー:影響力、対立、分極化をめぐるデジタル市場)という特集に掲載する論文を募集している。

「研究者にとっては、たまらない領域でしょうね」と、リサーチアシスタントのIRISが言った。「誰も答えを出していない問いが山積みで、しかも解ければ社会課題の解決に直結する。研究者魂を刺激されずにはいられない」。

私は言った。「そのワクワクが、まだ誰も止め方を知らない『難題』であることの裏返しでもあるけどね」。

そもそも、偽情報エコノミーという概念はマケイン研究所(McCain Institute)とカーター・センターが2024年に出したリポート「The Disinformation Economy」で提唱された。その核心はシンプルだ。偽情報を流通させることで、経済的な恩恵を得る者が存在する。そして、金儲けの仕組みを支えているのが「AdTech」(広告テクノロジー)という巨大産業だ。

「ソーシャルメディアのクリックを通じて偽情報サイトに流入する広告収益こそが、偽情報を発信するウェブサイトを存続させ、さらなる偽情報の生産を後押ししている」(The Disinformation Economyより)

閲覧やクリックといった行為はエンゲージメントと呼ばれ、収益に直結する。広告収入のカウント方法には、表示回数(インプレッション数)に応じたもの、広告クリック数に応じたもの、実際に広告先で購入した数に応じたものなど様々あるが、いずれの場合も、どれだけ多くの人を自分のウェブサイトに呼び込めるかが金儲けの生命線だ。

MITの研究によると、虚偽の内容や誤解を招くニュースは、真実を伝えるものに比べて6倍速く拡散するという。人々の分断を煽り、物議を醸すようなコンテンツほど人々の感情に強く訴えかけ、インタラクションを生み出す可能性が高い。そして、ソーシャルメディアのアルゴリズムがエンゲージメントの高いコンテンツを拾い上げ、それらの情報をさらに拡散していく。

こうして、かつては政治的プロパガンダが主流だった偽情報は、今や莫大な利益を生み出すビジネスへと変貌を遂げたのだ。

AdTechが偽情報を支える構造

私たちが日常的に目にするウェブ広告の多くは、「プログラマティック広告」という仕組みで配信されている。

ユーザーがあるページを開いた瞬間、その人の属性に関するデータをもとにリアルタイムで広告枠が売買され、「誰の広告を見せるか」が決まる。広告を掲載するページの内容が何であれ——それが信頼できるメディアでも、あるいはフェイクニュースサイトでも——広告は自動的に配信される。広告主は、自社の広告がどこに表示されているか把握できていない可能性が高い。

The Disinformation Economyによると、2022年にはAmazonやヒューレット・パッカード、Bing、ベライゾンなど、著名な広告主の広告が選挙関連の偽情報や健康関連の偽情報、陰謀論を発信するサイトに掲載されていた。だが、オンライン広告市場の複雑さゆえに、これらの広告主はこうした広告掲載の事実自体を把握していなかった可能性があるという。

広告を出稿する企業にとって、これは重大なリスクだ。気づかないうちに、不適切な内容を扱っているサイトに自分たちの商品やサービスの広告が掲載されかねない。その結果、商品やサービスのみならず企業イメージの低下につながる恐れがある。

そして、「フェイクニュースを支援しよう」などと思っていないにもかかわらず、年間4260億円がフェイクニュースに流れていく。

偽情報の問題の核心は、悪意ある個人ではなく「仕組み」にある。偽情報が経済的利益を生む限り、それは生産され続けるだろう。フェイクニュースを削除しても、つくる動機が消えなければ永遠にイタチごっこだ。

こうしている間にも、嘘は進化している。だから、情報に向き合う私たちも進化しなければならない。

「なぜこのコンテンツが自分のタイムラインに現れたのか」

「誰がこれで利益を得るのか」

そう問い始めた瞬間から、あなたはこの「偽情報エコノミー」の消費者から、観察者に変わる。

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    • 瀬戸 久美子

      Forbes JAPAN Contributing Editor / 特集デスク兼任|東京都市大学特任教授|中央大学国際センター学生起業支援コーディネーター | インタビュアー・モデレーター・研究者

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