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Writer's pictureKumi Seto

敵か、味方か?「AI革命」への備え方



「アントレプレナーシップ(起業家精神)~グローバル経済の原動力~」をテーマに、6月27日から中国・天津で開催された「第14回 世界経済フォーラム ニューチャンピオン年次総会2023」(通称「サマーダボス」)。世界90カ国から1500人以上のビジネスリーダーや公人が集い、3日間を通じて行われたセッションの数は160を超えた。

サマーダボスで注目を集めたテーマのひとつがAI(人工知能)だ。世界経済フォーラムが6月26日に発表した「2023年 新興テクノロジー・レポート トップ10」では、生成AIが「今後3~5年で世界に最も影響を与える新興テクノロジー」の2位にランクインした。

本レポートでは、生成AIは「教育や研究、その他の分野にも応用され、複数の業界をディスラプション(創造的に破壊)することになるだろう」と指摘している。一方、ChatGPTが世界を席巻するなか、AIの活用については各国で議論が沸き起こっている。

果たして、私たちはAIとどう向き合うべきなのか。サマーダボスで行われた2つのセッションの様子をお伝えする。

生成AIは敵か? 味方か?

初日に開催されたセッション「Generative AI: Friend or Foe?」(生成AI:敵か味方か?)では、スロベニアのデジタル変革大臣エミリヤ・ストイメノヴァ・デュフ、香港科技大学電子コンピューター工学科主任教授のパスカル・フォンなどAIに詳しい産官学のリーダー5人が登壇し、教育分野をはじめ生成AIが社会や未来に与える影響などについて議論した。

スロベニアのデジタル政策を担うデュフは「AIは大きな可能性を秘めている。恐怖心がイノベーションに支障をもたらしてはならない」と強調したうえで、AIを教育現場に導入することへの懸念を表明。さらに「AIは私たちがすでに持っている固定観念や偏見を増長させる可能性がある」と指摘し、解決策を見出す必要性を訴えた。

一方、Learnable.ai会長のワン・グアンは「生徒と教師の間には感情的なやりとりが発生し、教育そのものは単純にAIに代替できるものではない」としながらも、生徒の宿題の評価や個人指導などにおいては「AIが素晴らしい役割を果たすことができる」と述べた。

では、AI時代の教育とはどうあるべきか。AI関連で多くの研究成果を挙げてきたフォンは、「私たちが訓練する必要があるのは、未来の人間がより“人間的”であること。すなわち批判的思考をより深め、より人文科学的であることだ」とし、「歴史や哲学、倫理学、芸術などを多く取り入れたカリキュラムの復活」を提唱した。

「今日の教育システムは(エンジニア、倫理学者など)サイロ化されているが、将来的にはサイロ化は成立しなくなる。私たちは基本に立ち返り、若い世代が“ルネサンスな”男女になるように教育する必要がある」(フォン)

「AI革命」にどう備えるべきか?

開催2日目の28日には、「Keeping Up: AI Readiness Amid an AI Revolution」(キーピングアップ: AI革命下におけるAIへの備え)が行われた。セッションにはドイツのハーティー・スクール教授ジョアンナ・ブライソン、ルワンダのICT・イノベーション大臣ポーラ・インガビレ、中国発のIT企業Neusoft会長のリュウ・ジレン、コーザルAI(人間のように推論し、選択できる技術)を活用しビジネスを展開する英国発企業causaLens CEOのダルコ・マトフスキーの4人が登壇した。

ルワンダでICT関連の政策を推進するインガビレは、AIが最も破壊的なインパクトをもたらす可能性がある分野として医療、農業、公共サービスを掲示。「政府が先頭に立ってAIを活用したソリューションを導入し、国民の間に(AIを取り巻く環境への)信頼を構築する必要がある。そうすることで民間企業も取り組みやすくなる」と述べた。

AIの活用については、データの取得やプライバシーの問題など検討すべき課題も多い。AIや倫理の専門家であるブライソンは「これまで多くの人が私に『どうすれば人々に、AIに対する信頼感を抱かせることができるのか』と尋ねてきたが、これは誤った質問だ」と指摘したうえで、こう述べた。

「私たちは、AIを手掛けている人々やAIを規制している人々について話す必要がある。私たちが今、信頼に対する課題を抱えている理由のひとつは本来得られるべき情報を得られていないこと、そして透明性が十分に確保されていないことにある」(ブライソン)

一方、コーザルAIの研究でも知られるマトフスキーは「(AIを用いた)意思決定においては、アルゴリズムが何をしているのかを真に理解する必要がある」と説明。「『なぜ』に答えることができるAI」の研究こそが、人々のウェルビーイングに影響を与える意思決定には重要だと強調した。

技術革新が急速に進むなか、AIの利用や開発に対する規制は必要なのか。折しも欧州議会は6月14日に、AIの規制法案に生成AIへの規制も盛り込んだ修正案を採択した。マトフスキーはEUの法案について「何がハイリスクで、何がクリティカルで、何がノーリスクで規制対象外なのかを明確に分けている」と評価しつつも、「最善の意図を持った規制であっても、実施方法や施行方法を間違えば創造性を損なうことにもなりかねない」と警鐘を鳴らした。

インガビレは「政府がオーケストレーションの主導権を握るべきだと考えるのは当然だと思うが、重要なのは、政府だけではそれを実現できないということだ」と指摘。AIの技術や産業が成熟していく過程ではパートナーシップやコラボレーションが必要だと述べた。

教育から医療、日々の暮らしに至るまで、AIの存在感は高まるばかりだ。もはや誰一人として「部外者」ではいられない。政治やアカデミア任せにせず、さまざまなステークホルダーが緊密に連携しながら新たなフレームワークを構築することが求められている。

写真/世界経済フォーラム

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