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Writer's pictureKumi Seto

AIは世界の不平等を解消できるのか

Updated: Feb 10, 2024



2024年1月15日に開幕した世界経済フォーラム年次総会2024(通称「ダボス会議」)。「信頼の再構築へ」をテーマに2,800人を超えるリーダーが集い、主に「分断された世界における安全保障と協力の達成」「新時代の成長と雇用の創出」「経済と社会の原動力としてのAI」「気候、自然、エネルギーの長期戦略」の4つのテーマの進展に向けた議論が続く。

今回のダボス現地リポートでは、16日に行われた2つのセッションを通じてAIが持つ可能性と、世界が協力して解くべきAIの課題を紐解いていく。

気候変動とAIに共通する「課題」とは

マイナス10度以下に冷え込んだ早朝のダボス。8時15分にスタートしたセッション「生成AI:第4次産業革命の蒸気機関?」(Generative AI: Steam Engine of the Fourth Industrial Revolution?)にはIBMのCEO、アクセンチュアCEO、クアルコムCEO、アラブ首長国連邦(UAE)AI・デジタル経済・リモートワーク応用担当国務大臣、米国上院議員という錚々たるメンバーが揃い、生成AIが世界の産業に与える影響や、生成AIに潜むリスクをどう管理すべきかについて議論した。

生成AIがもたらす機会とリスクについて、米国上院議員のマイク・ラウンズは「AIは戦争のあり方に影響を与えるだろう」と指摘。軍隊や軍備にAIを導入する国は他国を圧倒するだろうと、セッション冒頭から重い議題を投げかけた。

それに対し、UAEのAI・デジタル経済・リモートワーク応用担当国務大臣オマール・スルタン・アル・オラマは「気候変動とAIは(世界規模の問題であり、放っておけば大惨事につながるという点で)非常に似た課題を抱えている」と話し、UAEでは気候変動対策や交通量の最小化などにAIを導入しつつも、他国と協力しながらテクノロジーがもたらす悪影響に対処する姿勢を示した。

産業界トップたちの考えはどうか。アルコムCEOのクリスティアーノ・アモンは「この1年で生成AIを用いた何千ものアイデアを目にするようになった」「(生成AIが急速に発展する今は)イノベーションとテクノロジー・リーダーシップの格好の機会だ」と指摘。アクセンチュアCEOのジュリー・スウィートは「政府であれ企業であれ、成功するかどうかの最大の分かれ目はリーダーシップであり、本当にテクノロジーを理解しているかどうかだ」と話し、テクノロジーへの正しい理解がよりよい選択と運用につながるとした。

生成AIの活用については多くの懸念点があるのは事実だ。しかし必要以上に規制をかければ、新たな技術がもたらす可能性を阻害する恐れがある。IBM CEOのアービンド・クリシュナはテクノロジーそのものを規制することの難しさに言及しつつ、生成AIについてはユースケース単位で考えることが重要だとし、イノベーションを阻害しない規制のあり方を提案した。

AIは世界の格差解消に貢献できるのか

年次総会2日目の午後はウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領や中国の李強首相、ジェイク・サリバン米国国家安全保障担当大統領補佐官など、政治家のトップや政府高官のスピーチが目白押しだった。

そんななか、事前予約で即満席になったセッションが「AI:偉大なる平等主義者?」(AI: The Great Equaliser?)である。登壇者はサウジアラビア通信・情報技術大臣のアブドラ・アル・スワハ、国連事務総長技術特使のアマンディープ・シン・ギル、韓国首相の韓悳洙(ハン・ドクス)、ルワンダ情報通信技術革新相のポーラ・インガビレ、アルファベット社長兼最高投資責任者(CIO)のルース・ポラット。多彩なリーダー5人がAIへの平等なアクセスを確保するために必要なことを議論した。

セッション冒頭、韓国首相の韓は「AIはいくつかの注意点を除けば偉大な平等化の装置になり得る」と発言。ヘルスケアや電子商取引、気候変動など目的に合わせてAIモデルを微調整し、国内外の人々のニーズに適応できるようにしたいとの考えを示し、「デジタル化において、韓国は頂点に立つ国のひとつだ」と話した。

一方、デジタル変革エコシステム強化のために世界銀行グループから1億ドルの支援を受けたルワンダ。同国の情報通信技術革新相インガビレは、AIを農業や医療の分野で活用することで大きな経済効果を得られるとし、「(デジタル化の)ギャップを縮めるのを待つのではなく、(ギャップの縮小とテクノロジーの導入を)同時進行するところにチャンスがある」と説明。アルファベットのポラットも、AIが貢献できる分野として医療や食糧、気候変動などを挙げ、AIの活用はあらゆる業界や国のリーダーにとって重要だと指摘した。

AIが生み出す経済効果に大きな期待を寄せるのは中東のサウジアラビアも同じだ。同国の通信・情報技術大臣スワハは医薬品開発の例を挙げながら、AIから恩恵を享受するにはAI世代のリーダーシップと業界を超えたパートナーシップなどが不可欠だと強調した。

一方、SDGsの観点から否定的な見解を示したのが国連事務総長技術特使のギル。現状のままでは「AIがSDGsを救うことはないだろう」としたうえで、AIがもたらすリスクへの対処や適切なデータ活用、AI倫理や人的資本などさまざまな分野に投資を拡大する必要があると説いた。

世界経済フォーラムが1月15日に発表した「チーフエコノミスト・アウトルック」では、今後5年間で高所得国では生成AIによる生産性向上効果が経済的に大きくなると予想したチーフエコノミストは全体の94%にのぼった。一方、低所得国で同様の効果が見られると予測したチーフエコノミストの割合は53%に留まる。

AIは世界の不平等を解消し、誰もが信頼できる存在になり得るのか。そして、AIへの平等なアクセスを確保するために貢献できることは何か。
 
「AIは偉大なる平等主義者になるか」。あなたなら、この問いにどう答えるだろうか。

写真/世界経済フォーラム

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