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Writer's pictureKumi Seto

イノベーションの創出に必要なこと

Updated: Feb 10, 2024



世界経済フォーラムがセールスフォースやデロイトとともに2020年に立ち上げたオープン・イノベーション・プラットフォーム「Uplink」(アップリンク)の勢いが加速している。4年間で6万9,000人以上の起業家や投資家、専門家、パートナーからなるエコシステムを構築し、56のイノベーション・チャレンジを主催。449人の起業家を「トップ・イノベーター」として表彰してきた。

世界経済フォーラムの第54回年次総会(通称「ダボス会議」)開催3日目には記者会見を開き、マニュライフ生命やサウジアラビア王国など幅広いパートナーから27年までの活動資金として3,700万スイスフラン(約63億円)を確保したと発表。世界が直面する課題の解決に取り組むインパクト社会起業家へのサポートを拡大すると宣言した。

日本を含め、世界には多くのスタートアップ育成・支援プログラムがある。だが、それらすべてが成功しているとは言い難い。アップリンクのイノベーション・エコシステムが短期間で軌道に乗りインパクトを創出できているのはなぜか。トップ・イノベーターの取材から見えてきたのは、課題と目的を共有し、ともに学び合い活かし合う場とつながりの大切さだ。

可能性を信じることから革新は生まれる

1月16日の午前9時30分。「ダボス会議」のメーン会場からほど近い高校のホールには平日にもかかわらず大勢の人たちが集まっていた。来場者にはショート丈のダウンコートを羽織った高校生や、ローカルコミュニティの住民と思われる人たちの姿が目立つ。

彼らが集まった理由。それは世界経済フォーラムが主催する「オープン・フォーラム」に参加するためだ。オープン・フォーラムは一般の人々に無料公開されるイベント形式のセッションだ。この日のタイトルは「テクノロジーで深呼吸しよう」(Take a Deep Breath with Technology)。気候変動と大気汚染に対処するための革新的な方法について5人のパネリストとともに考えるというものだった。

登壇者のひとりが、ウガンダを拠点にエネルギー事業を手掛けるマンドゥリス・エナジー共同設立者兼マネージング・ディレクターでありトップ・イノベーターのピーター・ベンハー・ニーコだった。マンドュリス・エナジーは廃棄物から生成したエネルギーを手頃な価格で提供する企業だ。AIとブロックチェーンを用いた独自のデジタル・プラットフォームで配電や販売を管理する。

気候変動対策について聞かれたニーコは「問題だけに焦点を当てると難題のように思えることがある。しかし解決策はある。そのことを私たちが理解している限りイノベーションは存在する。(経済性、社会性、人々の暮らしの質の向上を)ウィン・ウィン・ウィンにすることも可能だ」と話し、イノベーションの力を信じることの重要性を説いた。

オープンフォーラムの2日後、ニーコに話を聞いた。この1年で、マンデュリス・エナジーはウガンダとイギリスの2カ国だけだった事業拠点を、アジアを含む3大陸の12カ国にまで拡大する勢いだ。また、同社は今後3年以内に現在の約10万世帯から100万世帯以上にサービスを提供する計画だという。

「農村の農業コミュニティに手頃な価格で信頼できる持続可能な再生可能エネルギーやクリーンな調理、グリーン水素、持続可能燃料、バイオ炭をベースとした有機バイオ肥料へのアクセスを提供するとともに、年間100万トン以上の高品質で追跡可能な二酸化炭素の長期的な除去を実現する。アップリンクのエコシステムのサポートがなければ、このような迅速かつ効果的な動きはできなかっただろう」とニーコは言う。

具体的に、アップリンクの何が彼らの事業をスケールアップさせたのか。ニーコは世界中のリーダーにアクセスできる環境やアップリンクが作成した事業紹介ビデオの存在、アクセンチュアをはじめアップリンク・コミュニティで得たパートナーたちの協力などを挙げたうえで、トップ・イノベーター同士が学び合うことの価値を強調する。

「トップ・イノベーターたちは、世界で最も差し迫ったいくつかの課題に対して革新的な解決策を提示している。アップリンクは私たちに、卓越性にコミットする緊密で多様な実践コミュニティをもたらした。私たちは互いに学び合う。なぜなら、同じ道を歩んだことのある人こそ最高の教師だからだ。私たちは仲間から、そして先人たちから学ぶことができる」

志を共にするイノベーターとの出会いに価値があるという声は他のトップ・イノベーターからも聞かれた。南アフリカに拠点を構え、テクノロジーを通じて小規模漁業者を支えるABALOBI共同設立者兼マネージング・ディレクターのセルジュ・ラマカースは、「(アップリンクのコミュニティで)私が特に楽しんでいるのは起業家仲間から学ぶ機会だ」と話す。

学びを実践につなげるためには金銭面を含めたさまざまな資本が不可欠だ。ラマカースはアップリンクのコミュニティに参加するメリットとして、企業の成長を後押しするアクセラレーターやインキュベーターなどとつながる機会の多さを挙げる。

「私たちのビジネスの使命と価値を高めてくれる潜在的なパートナーとのつながりを組織し仲介することは、アップリンクが最も得意とするところだろう」

気候変動や環境汚染など、世界が直面している課題を解決するには経済活動や社会のシステム変革が求められる。水を1滴も使わずにプラスチック容器包装の油分を取り除くことができるソリューションを開発し、サーキュラー・エコノミーに挑むエコ・パンプラス創設者兼CEOのフェリペ・カルドーゾも、アップリンクの魅力はネットワーク構築力にあると言う。

「サーキュラー・エコノミーにはさまざまなステークホルダーとパートナーシップを組み、すべてのバリューチェーンを巻き込む必要がある。今回のダボスでも石油化学関連企業や世界有数の石油会社のリーダーに出会い、我々の技術を知ってもらい、どのように協力しながらスケールアップできるかを話し合うことができた」

今年の年次総会には12人のトップ・イノベーターが招待され、自社が手掛けるテクノロジーやソリューションを披露した。世界の起業家たちはどんな「打ち手」を持っているのか。パートナーシップを通じてそれらをどう活用し、互いの事業と社会に貢献できるのか。アップリンクの取材を通じて見えたのは、自らの信じる道を語り合い、ともにコレクティブ・インパクトの創出に挑むリーダーたちの姿だった。

どんなに革新的なソリューションがあっても、たったひとりで世界を変えることはできない。信頼できる仲間の存在を推進力にしながら希望の光を灯し続け、希望を現実に変えていく。それこそがイノベーション・エコシステムの真髄だろう。マンドゥリス・エナジーのニーコは言う。

「今年の年次総会のテーマである『信頼の再構築へ』(Rebuilding Trust)という言葉に、私は『希望に力を』(Powering Hope)という2つのワードを付け加えたい。私たち人類が今日、産業とテクノロジーの最前線にいるのは、絶え間ないイノベーションによって私たちをここまで導いてくれた先祖、先祖代々の家長そして両親のおかげだ。しかし、私たちは悲しいかな、時にイノベーションの重要性や『Kaizen(カイゼン)』という言葉が持つ重要な意味を忘れ、継続的な改善というレガシーを受け継ぐことを忘れてしまう」

一息ついたのち、彼はこう締めくくった。

「(信頼を再構築するには)まずは人類、そして私たちの大切な拠り所である母なる地球への信頼を再構築することだ。そのような角度から自分自身を見つめるとき、『カイゼン』の遺産を受け継ぐ仲間として信頼することはとても容易になる」

写真=世界経済フォーラム

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